「おめえはいいよなあ、まだ子供だからよ。
わかんねえだろうけどよ。
おれの女がいなくなっちまってよお」
そりゃあ、分からないに決まってる!
そんなことで子供を羨ましがるな!
と突っ込みたかったが…。
その様子から察するに、
男はどうも女にふられたらしかった。
よっぽど惚れていたのだろうか。
それからも、グチグチと女のことを話し続けた。
息子は、何を言われているのか、チンプンカンプン。
ただ黙って、横でアイスクリームを食べ続けている。
すると、何を思ったのか、やおら男は
懐から財布を取り出して、千円札を出した。
「おめえは、いい子だなあ。
ほれ、小遣いやるよ」
そういうと、男は息子に千円札を渡したのだ。
話を聞いてくれたカウンセリング料とでも言うのか?
まあ酔っぱらっている勢いだろうけど…
私はヒヤヒヤだった。
息子に返すように言おうか、迷った。
私が、結構です、などと言ったら逆上するかもしれない。
ぴったりつくように、男は息子の横に座っている。
下手なことは言えない。
どうしよう…
そう思っている時だった。
息子の思いがけない行動に、私も、男も、
そして遠巻きに眺める人たちも驚かされてしまった
息子は、そのお金を男から受け取ると、
そのベンチのすぐ後ろにあった花屋へ走って行った。
至近距離であったし、男は大声で話していたから、
当然、花屋の店員も様子を察知していたのだろう。
「お花ください」
息子がそう言って千円札を出すと、
さっと無言で明るい黄色の花束を渡した。
その花束を受け取ると、息子はまた男の所へ行った。
「はい、おじちゃん、お花」
その男は一瞬、びっくりしたように息子を見つめた。
何が起きたのか分からない様子だった。
男は、しばらく茫然と差し出された花束を見つめていたが、
無言でその花束を受け取ると、
コンクリートの地面に膝を崩して泣き出した。
男は花束を抱いたまま、号泣していた。
そこで、私は子供たち二人を抱えるようにして、
そっとそこから立ち去った。
その男の泣き声を背中で聞きながら…。
大きくなった息子は今でも、困っている人がいると、
無視することができず、自ら手を差し伸べる人間に育ちました。
それは、私の育て方ではなくて、
きっと授かりものだと思えてなりません。