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鬼嫁の種

【切ない話】タクシー運転手のAさんはある日高齢の男性を乗せた。その男性は乗車した時からニコニコして世間話をしていた。「男手ひとつで一人娘を育てあげ、待望の孫が産まれました。」

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結婚10年が過ぎてもう半分は諦めていたところ、
娘から妊娠したとの朗報が。
大事に大事にするようにと娘に話し、生まれてくる孫のことを
それはそれは楽しみにしていた。
出産予定日が近づき、連絡がくれば
すぐにタクシーを呼んで病院に向かうつもりで
電話の前にはすぐにわかるようにタクシー会社の番号も貼っておいた。

そしてついに連絡が来た。分娩室に入ったとの知らせ。
男性は電話を切るとそのまますぐにタクシー会社のダイヤルを回した。
しかし生憎その日は朝からの雪でタクシーは全て出払っていた。
事情を話し、できるだけ早く来てほしいと伝え電話を切った。
まだかまだかとタクシーを待っていると、
ようやくタクシーが到着したらしい。
運転手さんは自分の孫が生まれるわけでもないのに、
早く早くと急かすように走り出した。

そこまで話を聞いた時、Aさんの首筋に冷たい汗が流れた。

そして後部座席から

「おかげ様で孫にも会えました。その節は有難うございました」

と聞こえたきり言葉と共に気配も消えたそうな。

震える手で必死にハンドルを握り、路肩に止めて振り返ったら
そこには誰もいなかったらしい。

実はAさん、半年ぐらい前の雪の日に、こんな体験をしていた。

本部から指示された住所にタクシーを向けたが、
家の前に車を止めてクラクションを鳴らし
待っていたが、誰も出てこない。
しばらく待ったのち、表札を確認して
インターホンを鳴らしたがやっぱり出てこない。
本部に確認したが間違いでもない。

さらに電話を受けた女性によると娘さんが出産するらしく、
行先はその総合病院だと言う。

とりあえず玄関ドアをノックしてみようと
門を入りドアを叩いてみたが、やっぱり反応がない。
もう少し待っても出てこないようなら帰ろうと
タクシーに引き返そうとしたが、
なぜか分からないが嫌な予感と
後ろ髪を引かれる思いがして引き返せなかった。

失礼かなと思いつつ、庭の方へ回り、
窓を軽く叩いて名前を読んでみたがやはり反応はなく
ガラス越しにカーテンの隙間から覗いてみたら、
そこに胸を押さえてもがき苦しんでいる男性が見えた。

すぐに救急車を呼び、救命士には娘さんが
出産のために入院しているらしい病院名を伝えた。

Aさんが関わったのはここまでだった。

が、どうにも気になって後日病院に向かい、
その日に出産した女性の父親が倒れているのを発見し、
救急車を呼んだのは自分であること、
その後が気になって参上した旨を伝えたところ
入院中の娘さんに聞きに行ってくれたそうだ。

そして改めて連絡さしあげたいので、
良かったら名前と連絡先を聞いてほしいと言っていると。
それでAさんはタクシー会社の電話番号と名前だけ伝えてもらったらしい。

そして男性が亡くなったことも聞かされた。

それから数ヶ月経って、会社へ女性が訪ねてきた。
その男性の一人娘さんだった。

Aさんが発見した男性は心筋梗塞で、
病院に到着してすぐ手術室に運ばれた。
どうにか一命をとりとめたかに思われたが、数日後急変し亡くなったらしい。

しかし手術後に意識を一旦取り戻し、孫の顔を見せることができたそうだ。
もしAさんが発見してくれなかったら、孫の顔を見ることもなく
ひとりで亡くなってたはずだと涙を流して礼を言われたらしい。

あの時の男性が、律義にも礼を言いたくて、客となって
Aさんの車に乗り込んできたと言うことか。

Aさんは、消えた客の最後の言葉、

「有難う」

を思い出し涙が止まらなかったと言う。

なんか切ない・・・と思った。
所々補完したが、だいたいこんな話だった。長くてすみません。

何を書いても構いませんので@生活板 37

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