生前の父が語った昔話。
父は私がまだ幼い頃、会社勤めの傍ら、休日に会社には内緒で訪問販売をやってた。
(子供の玩具とか女性向けのファッション用品とか)
母が私を産んだ後大病し、私は祖母の家で暮らし、父は母の医療費のために金稼ぎに奔走してた。
ある時、父は東京から鈍行で半日ほどの某県にセールスに行ったという。
商店の少ない田舎町で、売れ行きはわりと好調だったが、スタートが遅かったのですぐに夜になってしまい、その地域の唯一の宿だという民家のような民宿に泊まることにした。
民宿に向かう道の途中、その地域一番の分限者(金持ち)らしい大きくて古めかしい立派な家を遠くに見かけ、
「明日は一番にこの家にセールスかけよう」
と思ったという。
民宿では、寡黙な中年の三姉妹が料理やら布団やら出してくれたという。
酒が入るとお喋りになる父は、料理を下げに来た姉妹相手に、病気の妻への心配やら、女房子供と離れて暮らす寂しさ、
早く手術費を稼いで家族一緒に暮したいという話をした後、
「明日はあの大きな立派なお宅にセールスするつもりだ」
と言ったらしい。
するとしばらくして三姉妹が並んで入って来て、神妙な顔で
「あの家に行くのはやめなさい」
と言ったらしい。
