翌日、学校に行く前に、しのぶ君はもう一度言った。
「お父さん、今日は行かなんよ!
(行かないといけないよ)」
坂本さんの心が揺れた。
そしてしぶしぶ仕事場へと車を走らせた。
牛舎に入った。坂本さんを見ると、
他の牛と同じようにみいちゃんも
角を下げて威嚇するポーズをとった。
「みいちゃん、ごめんよう。
みいちゃんが肉にならんとみんなが困るけん。
ごめんよう」
と言うと、みいちゃんは坂本さんに首をこすり付けてきた。
殺すとき、動いて急所をはずすと牛は苦しむ。
坂本さんが、
「じっとしとけよ、じっとしとけよ」
と言うと、みいちゃんは動かなくなった。
次の瞬間、みいちゃんの目から大きな涙がこぼれ落ちた。
牛の涙を坂本さんは初めて見た。
(『いのちをいただく』西日本新聞社)より
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その小学校(熊本県)では、助産師として
日々キラキラと輝く命の誕生の瞬間に立ち会っている
内田美智子さん(福岡県行橋市)と、
酪農家が心を込めて育てた牛を毎日解体している
坂本さんのお二人をお招きして、
「いのち」のお話を聴くという授業をしたのだった。
その絵本は、坂本さんの話を聴いて感動した内田さんが、
坂本さんにお願いして出版させてもらったのだそうだ。
その『いのちをいただく』(西日本新聞社)のあとがきに、
内田さんはこう書いている。
「私たちは奪われた命の意味も考えず、
毎日肉を食べています。
自分で直接手を汚すこともなく、
坂本さんのような方々の悲しみも苦しみも知らず、
肉を食べています。
『いただきます』『ごちそうさま』も言わずに
ご飯を食べることは私たちには許されないことです。
感謝しないで食べるなんて許されないことです。
食べ残すなんてもってのほかです…」
考えてみたら、冷蔵庫って食べ物を腐らせないためにあるのに、
その冷蔵庫の中でいろんなものが腐ってはいないだろうか。
残さないで食べ切ることがどうしてこんなに難しいのか、
特に宴会やパーティで。
坂本さんも、内田さんも、ステキな人なんだろうけど、
このお二人を呼んだ小学校もステキな学校だなぁと思った。
みやざき中央新聞